XJは偉大か?(X308)
By Phil Weeden JAGUAR MONTHLY Dec.2001


批判的な人もいる。だが、いつの時代にもXJシリーズには人々を惹き付ける何かがある。 この、人々の愛するプレステージサルーンには、一体何があるのだろうか。

風が吹き荒れるケンブリッジ州のある日のこと。黒い雲は空を覆い、風はまるで1970年代のソウル シンガーのように声を張り上げている。そんな中を、ジャガー愛好家たちはXJを祝うために、イギリス中から このダックスフォードの屋外会場に集った。1968年式のXJシリーズ1から最新のXJ8までが、催しの ひとつとして一堂に並ぶ。今日はジャガードライバーズクラブのXJレジスターデイなのだ。XJシリーズには、 人々に深く訴えるものが確かにある。それは一体何なのだろう?

<XJの魅力>

低いルーフライン、大きなロードホイール、そして上品なプロポーションが、大いなる存在感と、XJにしかない 独特なスタイルをつくりだしている。室内に入れば、典型的なジャガークオリティーが、まるで暖かな毛布のように 包んでくれる。コノリーレザーとウッドのハーモニーは、ジャガーのブランドイメージには必須だ。独特な香りと フィーリングを持つジャガーのインテリアは、JAGUARエンブレムよりも雄弁に、この車がジャガーであることを 物語っている。

エンジンに火を入れると、V8は微かに唸り声を上げる。アイドリングでは、エンジンが回っているとはほとんど 分からない。本革のシフトノブを「D」レンジに入れ、短いハンドブレーキをはずして、滑るように走り出す。路面は でこぼこしていて平らではないが、どのような不整でも、絶妙なサスペンションは難なく吸収してしまう。誰もが容易に 扱うことのできる高性能なV8エンジン(特に4リッターモデル)は、加速の素晴らしさとスムーズさの両面で、あなたを 吹き飛ばしてしまうだろう。XJの拒みがたい高性能に我を忘れていると、いつのまにか道まで間違えてしまう。ブレーキを 踏むと、ほんの少し柔らか過ぎる感じがするが、確実に車体は減速する。

コーナーのクリッピングポイントにノーズを向ける。ここで、あなたは気付くだろう。こうした急コーナーでは、 もう少しスピードを落とした方が良い。XJは、しなやかな乗り心地を持つ反面、コーナーを攻めるような走り方をするには、 比較的扱いにくい方だ。グリップは十分なのだが、柔らかな乗り心地の代償だ。個人的には納得いかないが、XJ愛好者の 大多数は、当然の代償と考えているように思われる。

昨年、英国内において、XJはライバル達(ベンツのSクラスや、BMWの7シリーズ)よりも多く売れた。利益も十分に 見込んだ上である。新型モデルだから売れた、という訳ではない。一皮剥けば、XJ8はライバル達の中で最も古いモデルである。 現行7シリーズのルーツは1987年に遡る。Sクラスは1991年だ。XJ8はと言えば、V8エンジンはもちろん新しいが、 そのベースは1986年に登場したXJ40なのである。XJ40は、10年以上も生産され続けたモデルである。

<XJの価値>

私はXJシリーズ成功の秘密を探ろうと、いくつかのディーラーで話を聞いてみたが、その最も大きな要因は、なんといっても コストパフォーマンスが高いことだ。現在、入門モデルである3.2リッタースポーツ(EXECUTIVEでも同じ)は、 英国で£35,950(約700万円)である。この価格で、パワーウィンドウ、パワーシート、サンルーフ、クルーズ コントロール、バックセンサー、フロントガラスヒーター、CATサスペンション、17インチアルミホイールが付いてくる。 まるでクリスマスの買い物リストだ。

1995年の現行ボディースタイルになった最初のモデル(X300、6気筒)は、最もベーシックなモデル(A/T付き)で £30,500(約600万円)だったが、こうした装備はなかった。布張りのシートに、アルミでなくホイールカバー付きで、 選べるオプションもほとんどなかったのだ(注:英国では高級車であっても、ベーシックモデルにはパワーウィンドウ、エアコン などは標準装備されないのが普通)。それに比べて現行のXJ8は、歴代XJシリーズの中でも、最もお値打ちと言えるだろう。

もちろん、スタイリングも大きな要素だ。XJの優雅さに満ちた曲線は、今では見慣れたものではあるが、依然として賞賛の 視線を受けている。注意深い人なら、楕円形のフロントフラッシャーレンズ、バンパー、そして若干変更になったフロント グリルなど、6気筒X300(XJ6)との違いを見付けるだろうが、それらを除けば、X308(XJ8)とX300の スタイルは、ほとんど同じだ。古いと感じる人もいるだろうが、時を越えた、優美な独特のスタイルだと感じる人もまた多い。

広く宣伝されている通り、品質面における数々の向上も、人々にとって魅力となっている。XJ8は、ピニンファリーナに よるXJシリーズ3スタイリングを多く模倣しているかもしれないが、シリーズ3への賛辞はそれまでだ。XJ8の方が百倍も 良くできているし、信頼できる。JDパワーアンドアソシエーツによる顧客満足度調査結果こそ、ここ数年のXJシリーズに おける偉大な進歩の証明だ。

恐らく何よりも大きいのは、XJシリーズが、ジャガーを求める層の色々な個別の要求に適っていることだろう。 ディーラーの担当者は言う。「何年もの間、XJを買いたいと熱望してきた人々がついにXJを手に入れると、すっかり恋に 落ちてしまうのです」。実際、セールスマン達に話を聞くと、「XJを何台も乗り継ぐ人の、買い替え需要が多い」と言う。 乗り心地のクオリティーが、このクラスのマーケットでは販売を大きく左右する。その中でも、XJこそが「このクラスで 最も高級な乗り心地を提供する」という人もいる。「もしあなたが初めてこの車をドライブしたら、間違いなくこの車を買って しまうだろう。ドライビングの楽しさ、スタイリング、品質のどれを取って見ても、最高の1台だ」。

他の要素としては、XJは漸進的に進化してきたために、XJ40がベースであるにも拘らず、古さを感じさせないことだろう。 過去12年の間、常に改良が重ねられてきたのだ。1989年に行われた大幅な刷新から、1994年のX300登場に至る までは、毎年何らかの改善や変更が行われている。そのわずか3年後には、V8エンジンが搭載され、インテリアデザインの 変更が行われている。その後もリファインが続けられ、いまや完璧と言えるまでになった。XJはいつでも、より良く、そして より良くなっている。

ブラウンズレーン(注:ジャガーカーズ社のこと)の公式スポークスマンは、ジャガーが高い人気を保ち続けている秘密について、 こう言う。「ジャガーは、英国王室に確固とした基盤を持っています。王室の方々は、XJが伝統的に持つ名声、優雅さ、 職人気質といったものを好まれるからです。さらにここ数年は、XJRやXJスポーツなど、はっきりとスポーツ性を打ち出した モデルを投入することで、XJシリーズの市場を従来とは異なる層や、より若い層にも広げてきました」。

このようにして、ジャガーはいつも顧客をショールームに惹き付けるクオリティーを持ち続けている。少々過剰な(時代錯誤的で すらある)、しかし人々を魅了してやまないジャガーの美しさ、比類のない優雅な室内、並ぶもののない走りの高級さ。XJは、 英国王室を範とする人々(それは今でも価値のあることとされる)とって、大きな魅力を持つ車であった。それは、これからも 続くだろう。

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