XJ40 V12はスーパーカーか? 悪夢か?
By Garreth Coomber JAGUAR MONTHLY Nov.2001


6.0リッターV12を搭載したXJ40の価値について語れる者は、ほとんどいない。
XJ40 V12は、どこかに危険が隠れているのだろうか?

1980年代が終わろうとする頃、ジャガーはひとつの問題を抱えていた。1986年に登場したXJ40は、 6気筒エンジンのみを想定して設計されていた。一方、12気筒エンジンを搭載した旧型XJシリーズ3は、 XJ40登場以降も、依然として良く売れ続けていた。
XJ40に搭載された新型6気筒エンジン(すなわちAJ6型)は、効率が良くクリーンであったが、顧客の 一部は、このエンジンが高性能でも洗練されてもいない、真の高級車には相応しくないパワーユニットだと 考えていたからである。

この問題は、1970年代半ばの古き悪しきレイランド時代に根源がある。その頃、ブラウンズレーン(訳注:ジャガー社の 本社工場がある地名で、ジャガー社自身のことを指す)は、単に「第二大型車工場」と呼称されており、ジャガー社は そのアイデンティティーを失いかけていた。極端なコストダウン政策により、恐ろしいことに古いローバー製V8 エンジンを手直ししただけのものが、ジャガーに搭載されようとしていたのである。
ジャガーの設計者たちは、XJシリーズ2の後を継ぐ新しい車種(XJシリーズ3は、それまでのつなぎ役であると考え られた)のエンジンベイを、こうしたV型エンジンのみを考慮した、極めて狭いものにしてしまった。その後に起きた 石油危機に より、エンジンが更に小さい6気筒型に置き換えられたのは、当然の帰結であった。

しかしながら、こうしてXJ40が開発されていた1970年代半ばから、実際に販売が開始された1986年になると、 市場の要求は変わっていた。ジャガーのライバルである、メルツェデス−ベンツ、BMWが、相次いで彼らの最上級車に V12エンジンを搭載したからである。ジャガー社は、XJ40にV12エンジンを搭載するために、ボディー構造に対 して極めて大幅な改造を行う必要に迫られることとなった。V12エンジンやトランスミッション自身を現代的なものに 手直ししなければならなかったのは言うまでもない。1993年にXJ40 V12とW6が登場するまで、改良されない まま使われてきたのだ。
5.3リッターエンジンは6.0リッターまで拡大され、3速A/Tには、4段目のオーバードライブが加えられた。 新しいエンジン制御装置と2つの触媒により、V12の高性能を残しながら排出ガス基準もパスすることができた。 燃費は相変わらず良くなかったが、この車の購入者層にとっては、さほど重要なことではなかった。 こうしてこの新しい車は、驚くべき高性能と、世界中で最も早く、最も高級な車を作り出すメーカーの中にあって、 かつてジャガー社が持っていたステータスを取り戻したのである。

けれども、V12車の高額なリストプライスと、世の中の環境保護に対する関心の高まりに対する方針の軌道修正を欠いて いたため、販売成績はランキングの下位に取り残されることとなった。また、不幸なことに、大急ぎで生産に間に合わせた ツケは、今度は中古車オーナー(3代目?、それとも4代目か?)に高価な負の遺産として受け継がれることになった。
エンジンは確かに、堂々たる素晴らしいものだ。ところがボディーは、その強大なトルクと、かなりな重さのエンジンを 支えきれない。6気筒エンジンのXJ40に比べて、全てが2倍の衝撃を受ける。これが、足回りやドライブトレーンの 損耗を加速する。それに加えて、エンジンルーム内の複雑さと隙間のなさが、問題をさらに悪化させる(スパークプラグ 交換に2〜3時間かかるのだ)。そのため、自腹で修理しなければならない個人オーナー等は、必要な点検整備であって も、請求書の金額が高いため、あまりやりたがらない。今ではX300の価格もこなれているし、X300 V12(W6) では、XJ40 V12における問題点のほとんど全てが改良されているという事実を考えれば、XJ40 V12にあまり お金をかけたくない気持ちは良く分かる。

それでは、ジャガー愛好家としてはどうしたら良いのか? まず考えなければならないのは、どんなに外観も良く、走行 に何の問題もない車でも、XJ40 V12が走行距離16万kmを迎える頃までには、累積で百数十万円程度の整備費用 は掛かる、ということだ。他の全てのV12ジャガーと同じく、XJ40 6.0は、運転すると大変素晴らしい車だが、 それにはコストもまた伴う。実際に購入する前に、そのコストに十分見合うものだと思えるかどうかは、自分自身で良く 考える必要があるだろう。

XJ40 V12の整備性

XJ40 V12の整備は、アマチュアメカニックにもできないことはない。但し6気筒エンジン車に比べて、特にエンジン ルーム内の作業などは、複雑さも、要する時間も、2倍〜4倍だ。例えば、点火プラグ交換には専用工具が必要だし、ロア アームブッシュを交換する際に、エグゾーストスタッドが錆び付いてはずれないと来た日には、まさに悪夢になるだろう。 もし、少しでも自信がなければ、迷わずジャガー専門工場にまかせるべきだ。

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